身近な野草たち(3)

 ヤツデ
    この時期、花をつけている野草の仲間はほとんどなくなってくる。帰化植物のハキダメギクやボロギクはこの時期が花期であるかのように盛んに花をつけるが花が小さかったり、地味だったりで人目につきにくい。セイダカアワダチソウ、ツワブキ、ノハラアザミなどがまだ花をつけているが盛期を過ぎて生気がない。
    ヤツデは木本だから、「身近な野草たち」とは言えないが、暖地にはよく自生して身近に見ることができるので取り上げた。今が開花のシーズンで、小花が球形状に集まった「うこぎ科」共通の形状の花をつける。この植物は、アオキなどと同じように好んで日陰に生育する。白い花は日陰にあるといっそう目立つ。
     名前は、漢字で書くと「八手」で、その葉が掌状で指状の葉が沢山あることに由来している。 「八」は単に多いという意味で、指状の葉が八枚(本?)あるという意味ではないようである。実際、数えてみると指状の葉は九枚か七枚で八枚はほとんどない。右の写真も、指状の葉は小さい方が七枚で大きい方が九枚に見える。
    ヤツデは有毒植物で葉や根にサポニン系の有毒物質を含んでおり、食べたりすると嘔吐、下痢などをする。実際、この植物の葉が昆虫やその幼虫に食われているのを見たことがないので、動物一般に対して有毒なのであろう。ただ、花の蜜は無毒のようで、穏やかな天気の日には成虫で冬を越す昆虫が集まってきている。ヤツデ自身の繁殖に必要な昆虫は呼び込むが、自身の体を傷つける昆虫は排除するという合理的にできた植物である。
  ヤツデの葉と花
 クチナシの実
    クチナシも野草ではないが、特徴ある実がこの時期、黄赤色に熟して美しいので取り上げてみた。関東辺では栽培植物であるが、暖地九州などでは低山に普通に自生している。現在では、一般には、この花の姿と芳香が愛でられて栽培されていると思うが、昔は花を観賞するよりは、果実を利用した。日本書紀巻二十九(天武天皇)に、支子(クチナシの実)が種子島から租として納められたことが記載されている。染料や薬用に使用したらしい。染料としては、藍の下染めに使って緑色を染めるとか茜根の下染めに使用してオレンジ色を染めるとかした。
    耳成の 山のくちなし えてしがな 思いの色の 下染めにせん(古今集十九)
薬用としては、利尿や打ち身の外用薬として使用されたらしい。
現在でも食品の着色料として使用されている。
    名前の由来は、いろいろ説があるがどうも納得しがたい。中国名の梔子(しし)は、実の形が「巵(し)」という酒を飲むための青銅製の器(さかずきよりはジョッキに近い)に由来するとのこと。(京都)泉屋博古館の青銅器の図版を見る限りでは「巵」はクチナシの実にあまり似ていない。
クチナシの実
 タンキリマメの実
    タンキリマメはまめ科の蔓性多年草である。夏にまめ科共通の蝶形の黄色の花をつけるが小さな花なのであまり目立たない。秋になると熟した豆の莢の鮮紅色が人目を引く。莢の中には二個の豆が入っている。豆は熟すると光沢のある真黒色に色づく。莢がはぜて右の写真のような状態になった時の赤と黒とのコントラストもなかなか面白いし、形状も何となくユーモラスである。豆はしばらくは臍で莢にくっついていて離れない。
    名前は、漢字で書くと「痰切豆」で、全草や莢、豆が去痰効果があり、薬用として使用されたらしい。名前の由来も去痰効果から来ているらしい。
タンキリマメの実


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