身近な野草たち(2)

 コシオガマ
    この野草は比較的身近にあるがあまり知られていないようである。今の時期、ピンク色の花をつける背丈10cm〜20cmほどの野草である。毎年同じ所に必ず芽を出す。なかなか強い花で、花を採ってきて一輪挿しにでも挿しておくと、ついている蕾が全部花開くまで萎れずにいる。全草には粘着性の物質が分泌されているらしく、花を採ると手に粘りつく。
    シオガマは漢字では「塩釜」と書く。塩釜は、昔、塩作りで塩水を煮詰めるために使用した釜である。シオガマは結構、種類が多いが、いずれも美しい花をつける。花だけでなく、葉も美しい。そこで、「葉まで」美しいが、「ハマで」美しいになり、終に「浜で」美しいに転化し、浜で美しいのは「塩釜」となって、この花の類に「シオガマ」と名をつけたらしい。
     昔は、海辺では製塩が結構盛んで、「塩釜」なども近しい存在だったのであろう。
  コシオガマ
 ユウガギク
    野菊と一般には言われるもののひとつである。今ごろ咲く野菊はユウガギク、ヨメナ、ノコンギクなどである。これらはちょっと見には良く似ていて見分けにくい。中でもヨメナとノコンギクは青紫色の花の色も似ていて見分けにくい。見分けるには、「ヨメ(嫁)に髭無し」とかで、ヨメナの花びら(舌状花)の下の方の実の冠毛になる毛がほとんど無いほどに短いが、これがノコンギクでは相当長く、見分けるポイントとなる。
    ユウガギクは、これらに比べ花の色が白っぽく比較的見分けやすいように思う。
    ユウガギクは、漢字で「柚香菊」と書くが、この花のどこにも柚子の香りはない。
    「菊」という漢字は音読みのみで訓読みが無い。キク科を特徴付けているのは、舌状花が集合した頭状花である。そこでこれらの花を統べて抽象化した一般名詞として「菊」が生まれたものと思う。日本では昔そのような意味での一般名詞はなかったので訓読みが無いのだと思う。古は、ヨメナ(古名ウハギ)にしても決して花を愛でたものではなく、野菜としての実用性を認めたものであり、そこには抽象的な「菊」の概念は無い。万葉集にウハギを詠った2首があるが、いずれも食物としての係わりを持った歌である。
    妻もあらば摘みてたげまし佐美の山野の上のうはぎ過ぎにけらずや
    春日野に煙立つ見ゆ少女らし春野のうはぎ採みて煮らしも
ユウガギク
 エビズル
    エビズルは、身近に見られる野生の葡萄の一種である。一般には、野葡萄とか山葡萄とか言われるものである。「エビ」は葡萄の古名で今は死語になっていると思うが、植物学名と色の名「エビ色(葡萄の搾り汁の色)」に残っている。
    「エビ」という言葉は、文献上は古くは古事記、日本書紀に出てくる。イザナギノミコトがその妻イザナミノミコトの屍を黄泉の国で覗き見し、恐ろしさのあまり逃げ帰ってくる話がある。覗き見を怒ったイザナミが最初に送った八人の追っ手(ヨモツシコメ)の追跡から逃れるために、投げつけたのが蔓で作ったかぶりもので、それが葡萄と化し、その葡萄を追っ手が食べている間に逃げおおせる筋書きになっている。桃の実を投げつけて逃げおおせる話もあるが、それはイザナミが二番手の追っ手として差し向けた雷神から逃げ帰る際の話である。
    野葡萄、山葡萄という言葉であるが、エビズルとは別物である「ノブドウ」、「ヤマブドウ」(いずれも植物学名)があり、ちょっとややこしい。丁度、春の七草の「ほとけのざ」と学術和名の「ホトケノザ」が全く別物であるのとちょっと似ている。
エビズル


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