箱根旧街道


    7月中旬のウィークデイの曇りがちの暑いある一日、野郎ばかり3人がある共通の目的を持って、箱根旧街道を元箱根から湯本まで下った。
    暑い日とはいえ、元箱根芦ノ湖々畔あたりはさすがに涼しく、紫陽花も丁度見頃でせいぜい700m位らしいが高度を実感させた。
    下り道を選んだのは、3人いずれも60歳代、上りはきつかろうと横着を決め込んだからである。旧街道はよく整備されていて、石畳道も歩きやすいとはいえ、下手をすると熱中症になりかねない暑い日、この横着な選択は正解でした。
    私自身は、この箱根旧街道下りに、共通の目的とは別に、何か珍しい野生の花に会えるかもしれないという期待も持っていた。もっとも関東地方のこの位の高度の所に、平地と異なった植物を期待するのは無理かもしれないが。やはり今の時期花をつけているのは、平地でも見られる、ヤマアジサイ、ノリウツギ、タマアジサイ(まだ蕾)、ヤマユリ、ウバユリ(まだ蕾)、(ヤマ)ホタルブクロなどだった。
    そんな中で、ちょっと珍しい植物ツチアケビが花をつけているのを旧街道筋で見つけることができたのは幸運だった。この花は腐食した木の葉がないと生育できない植物だからそんなに間近には見られない。
    ツチアケビは、らん科に属するが全く葉を持たない植物である。らん科には他にも葉を持たない仲間があって、これらを腐生植物と呼んでいる。腐生植物は、堆積した葉から、植物が持っている共生菌の力を借りて栄養分を吸収し生育している。太陽の光が直接届かない木の下闇では、葉緑素を持った葉があっても光合成ができないから、一般の植物は生育ができない。まさにそんな環境に適応して生きているのがツチアケビである。
    それにしても、木の下闇の石畳道の傍らに高さ50cmばかりのオレンジ色をした株が土に突き刺したように立っているのは何とも奇妙であると同時に山の妖気を感じる。古人もそんな妖気を感じたものと思うが、キツネノシャクジョウ(狐の錫杖)の別名もある。ツチアケビは漢字では土木通と表記し、土に生える木通(あけび)の意である。秋に赤色に熟す果実の形や大きさがあけびに似ているので付いた名とのことである。
    ツチアケビに会うことができただけで、箱根旧街道下りの目的を達したような気になって、本来の共通の目的の方は何となくぼやけてしまった。

    下図はツチアケビ。左図は全草、右図は花。
ツチアケビ全草      ツチアケビの花

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